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源氏物語 上

訳:角田光代

評価:

評価 :4/5。

概要

平安時代中期に紫式部によって書かれた世界最古の小説。
全54帖のうち桐壷~少女までを掲載。源氏物語を三部分けした、「第一部:光源氏の誕生と栄華」の栄華最盛期に該当するストーリーを記載。

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ちょっとしたことでも謙遜し、自分より年長者もしくは位の高い人、信望がよりすぐれている人には、素直に従って、その人の気持ちをよく汲み取るべきである、一歩引いていれば間違いないと昔の賢人も言い残している。

P415
【感想】
沢山ある源氏物語の翻訳の中で角田光代さん訳は現代的でとても読みやすくなっていました。今まで読んだ訳は色や季節、自然などの美しさが印象に残っていましたが、今回は臨場感があり、現代小説の様に読むことができました。
これは、沢山のヒット小説を生み出した角田さんだからこそでしょう。
今まで難しいと諦めていた人でも挑戦してみる価値がある翻訳です。

源氏物語が大好きなhobbitですが、久しぶりに読んで改めて知った事を3つ記載します。
1つめは葵の上が思いのほか早く亡くなっていた事です。
葵の上は光君の正妻であり、光君の子息を産みましたが、六条の御息所の怨念で亡くなります。この印象深いシーンが含まれる『葵』の帖は他にも衝撃的な話が盛り沢山なので、前半の一番の山場であり物語の中盤位の印象を持っていました。
しかし、序盤の9帖という事でとても驚き。
この『葵』の帖をこんなにも早く記載しても飽きさせない紫式部の筆力は相当なものだと改めて感じました。

2つめは光君が女性に対して恨みがましい台詞を意外と言っており、相手にしない女性もいたという点でした。完璧な男性で、女性にとても優しくなびかない人は全くいない王子様の印象を持っていました。
しかし、そうではない普遍的な人間らしい一面もあるからこそ現代までも愛されるキャラクターとなっている事に気づけたのは今回の発見でした。

3つめは『大和魂』という言葉が日本で初めて確認される書物がこの源氏物語であったということです。

 「やはり学問という基礎があってこそ、実務の才『大和魂』も世間に確実に認められるでしょう。(p604 少女)」

息子の夕霧を大学に入れた理由を説明する場面で出て来るこの言葉は、解題にも記載がある通り、現在使われている意味とは異なり、「知識を現実的に柔軟に処理してゆくために使用する知恵や才覚の意」として使われていたとのことです。
それが江戸時代から政治用語に変容し、明治維新の軍国主義的な思想から死をも恐れない勇敢な心という精神に代わっていきました。
様々なことを柔軟に取り入れていくというとても素敵な日本精神が、真逆の頑固一徹の様な印象に代わってしまったのはとても皮肉なことだと思います。

この様に読む度に色々な感想をもたらしてくれる源氏物語。続きが楽しみです。
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