変身

Genre:中編小説、不条理文学・実存主義

著:フランツ・カフカ

訳:中井正文

出版社:角川書店

発売日:1998年3月

評価:

評価 :2/5。

概要

チェコ出身の作家フランツ・カフカによる中編小説で、1915年に雑誌で発表。主人公のセールスマン、グレゴール・ザムザがある朝目覚めると、突然巨大な毒虫に変身してしまうという物語。

この作品は、日常生活の中に突然非現実が入り込む「不条理」を描き、家族や社会からの疎外、個人の存在意義や労働の価値について鋭く問いかけている。短編ながら強烈な印象を与え、世界中で愛読されている名作。


【中古】 変身 角川文庫/フランツカフカ【著】,中井正文【訳】
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彼女の年ごろの娘たちにありがちな、どんな場合にでも自分の満足を求めたがる、熱狂的な性向もあずかっていたのだろう。

p55

【あらすじ】

第1部:
 グレゴール・ザムザはある朝、目覚めると自分が巨大な毒虫に変身していることに気づきます。出勤の準備を試みますが、体が思うように動かず、社会人としての責任感が裏目に出てしまいます。家族は異変に気づき、恐怖と困惑で動揺し、父は怒り、母は悲しみ、妹グレーテは最初は世話を試みますが、不安を抱えます。そこに会社の支配人が訪れ、グレゴールの姿に衝撃を受け、彼の社会的立場は完全に崩れていきます。

第2部:疎外と生活の変化
 変身したグレゴールは家族の部屋に閉じ込められ、食事や身の回りの世話は妹グレーテが行うことになります。家族は次第に彼を恐怖や嫌悪の対象として扱い、以前のような親密さはなくなります。また、家族の生活も経済的に困窮していき、グレゴールは心理的にも重荷となっていきます。グレゴールは、自分が人間であるという意識を保ちながらも、家族との距離感や孤独を痛感し、外界の音や家族の会話を聞くたび、孤独と絶望が深まっていくのを感じます。

第3部:疎外の極致と結末
 やがて家族は、グレゴールを排除する決断を下します。妹グレーテが「もう彼はいらない」と告げ、父親もそれに同意します。グレゴールは次第に衰弱し、最後には息を引き取ります。その後、家族はほっとした表情で春の光を感じながら新しい生活への希望を見出す描写で物語は締めくくられます。

【登場人物】

名前関係特徴
グレゴール・ザムザ主人公。セールスマンある朝、巨大な毒虫に変身する。社会的責任感が強いが疎外されていく。
父親グレゴールの父威圧的で、変身後は息子を攻撃する。
母親グレゴールの母最初は息子を気遣うが、次第に拒絶する。
妹グレーテグレゴールの妹最初は世話をするが、最終的に彼を追い出そうとする。
支配人会社の上司グレゴールを厳しく管理、毒虫になった姿に衝撃を受ける。

【解説】

1. 時代背景
『変身』は1915年に発表され、第一次世界大戦前後のヨーロッパを背景にしています。カフカの生きたオーストリア=ハンガリー帝国では、都市化や産業化が進み、社会や家族の価値観も変化していました。この作品は、個人が社会的役割や家族内での責任を果たす中で感じる疎外や不安を描き、不条理な状況下での人間心理を鋭く照らし出しています。

2. 読むポイント
・不条理と疎外
主人公グレゴールが突然毒虫に変身するという非現実的な状況を通じて、人間存在の不条理や孤独、社会からの疎外を描いています。

・家族関係の複雑さ
愛と思っていた家族の関係が、経済的依存や責任感に基づくものであったことが明らかになり、家族の本質を問いかけます。

・労働と価値
グレゴールは長年、家族を養うために働いてきました。しかし、変身後は「働けない存在」として価値を認められなくなる。個人の価値が「働く能力」に依存する社会への批判が込められています。

・存在意義の問い
人間が存在する意味や社会での役割、愛や承認を求める心の葛藤がテーマとして貫かれています。

【感想】

『変身』は非現実的でありながら、現代社会にも通じるテーマが含まれている作品だと感じました。特に、毒虫になった最初の場面で、体が急に重くなり、起き上がれなくなるにもかかわらず、仕事に行かねばならないという心理描写は、働きすぎてうつのような症状が出ている状況と重なるように思えます。

しかし、その後の展開は非常に絶望的です。グレゴールは家族を大切に思い続けているにもかかわらず、家族の愛は次第に薄れていきます。毒虫となったグレゴールの思考は変わらないままですが、家族は現実を受け入れ、変化していきます。最終的には、現実主義の目でグレゴールを「毒虫」として認識し、存在しない方が好ましいとさえ考えるようになります。

この作品は、人の「存在意義」や「人間関係の本質」を問いかけるとともに、身体だけでなく精神の変身も描かれていると感じました。
短編ながら文体は緊張感に満ち、カフカ独特の不条理感が読み手の心に強く残る作品です。

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